研究会のご案内
1.日 時:2021年3月13日(土)14:00~17:00
2.会 場:Zoomにてオンライン開催
(※招待リンクは1ヵ月前になりましたらご案内いたします。)
3.内 容:
◇報告:加藤 光一氏(松山大学)
新著『グローバル東アジア資本主義のアポリア-日韓中台の「農村」的領域から考える-』(大月書店)をめぐって
◇コメント
・理論分野から:涌井 秀行氏(明治学院大学国際学部附属研究所名誉所員)
・農業分野から:黒瀧 秀久氏(東京農業大学)
◇その他
・合評会となりますので、加藤先生の新著をご用意のうえご参加ください。
◇申し込み
・参加を希望される方は北原までご連絡ください。
立正大学 北原 克宣(kita@ris.ac.jp)
<新代表あいさつ> 土井日出夫(横浜国立大学) 2017.10.15
去る2016年11月19日に、環境フォーラムの代表だった山本孝則氏が急逝された結果、まことに役不足ながら、新代表を務めさせていただくことになった土井です。なにとぞよろしくお願いいたします。
このフォーラムの代表を引き継ぐにあたり、主要な参加メンバーの方々に名称変更の検討をお願いいたしました。それは何といっても、私土井が環境問題の「素人」に過ぎず、到底「環境」と銘打ったフォーラムの代表となる資格がないと思ったからです。たしかに、環境フォーラムを引っ張ってこられた久保新一先生は「循環型社会」を提唱されましたし、故山本孝則先生は環境創造学部の創設に尽力されましたが、私にそうした実績はありません。
しかし、実はもう少し本質的といってよい理由もありました。それは、久保先生や山本先生が環境フォーラムを立ち上げた2006年以降に起こった二つの重大事件と関係があります。その二つとは、いうまでもなく、2007~8年に起こったリーマンショックと2011年に起こった東日本大震災です。前者は、ケインズ政策等によって克服されたと考えられてきた世界大恐慌レベルの危機の可能性が決してなくなってはいなかったことと、経済学者の誰もそれを正確には予言できなかったことを暴露しました。また、後者は、近代以前から繰り返されてきた自然災害に対して、近代以降の科学が無力であったことを明らかにしました。
詳しいことは省きますが、この二つの事件が示したことは、世界恐慌や震災といった、地球環境問題が深刻化する以前からある問題が、決して解決されたわけではなく、現下において真っ先に取り組むべき課題として改めて社会科学に突き付けられた、ということだと思います。そう考えて振り返ってみると、旧土地制度史学会の理論・現状分野と農業分野は、「狼少年」と揶揄されつつも、世界大恐慌レベルの危機の可能性を指摘してきましたし、今回の震災によるサプライチェーンの破断で明らかになったような、日本経済・世界経済の再生産構造と地域経済との関連性を強調してきました。その成果の評価は多々ありうるとしても、その「視角」は、今社会科学が求められているものと一致するのではないでしょうか。そうだとすれば、環境問題を軽視するわけではないとしても、ここで今一度原点に立ち返り、旧土地制度史学会の理論・現状分野との農業分野の問題意識を引き継ぐ形で、フォーラムの性格付けをし直してはどうか、と考えたわけです。
それでは、旧土地制度史学会の理論・現状分野と農業分野の現在に引き継ぐべき特徴は何でしょうか。私は、それは三つあると思っています。
一つ目は「理論を無視しない」ということです。経済学者のなかには、理論などなくても現状分析や政策研究はできるし、実際に行っていると主張する方々もおられます。その方々を排除するつもりはありませんが、我々は「理論と現状分析の往復運動」を科学の在り方として重視するし、めざしてゆく、ということです。
二つ目は、政治経済学・経済史学会内部に設けられたフォーラムという性格上、歴史研究と深い関連にある現状分析や政策研究をとりあげる、ということです。そしてそれを理論的に支えるためにも、このフォーラムの基礎にある理論は、マルクス理論が中心になると思います。
三つ目は、未来に向けた歴史的展望としての政策を重視してゆく、ということです。旧土地制度史学会の農業分野(の一部)が提起した「土地国有化」は、その政策的評価に否定的見解が多いのはやむを得ないとしても、そうした政策を提起しようとする「姿勢」そのものは尊重してゆきたい、と思うわけです。
今回フォーラムの新名称が「理論・現状・政策フォーラム」に落ち着いたのは、以上の諸点が、旧土地制度史学会の理論・現状分野、農業分野から継承すべき点として、フォーラムのメンバーの皆様におおよそ共有されていたからだと考えます。
政治経済学・経済史学会の多くの方々、とりわけ若い方々が、このフォーラムに関心を持たれ、参加されることを願っています。
「環境フォーラム」の呼びかけ
グローバル化された21世紀の経済社会にとって喫緊の課題は、空前のスケールで資本主義物質文明が普及していく反面で、地球規模の環境破壊が待ったなし の速度と深刻さで進んでいることである。人間にとっての環境とは突き詰めれば、生物界の一員に不可欠な物質的自然であると同時に、「物質的自然を改造する 人間関係」即ち生産関係である。「自然界に視点を据えて再把握された人間社会」を「人間環境」と捉えるとき、今日の社会科学に求められているのは、持続可 能な人間環境を育む《新しい人間関係・生産関係》の究明である。他方、日本の現実に目をやれば、世界にも例を見ない農業と地域社会の崩壊、少子高齢化とそ れに伴う年金破綻、住宅・都市インフラという国民資産の劣悪さなど、我々をとりまく環境はまさに持続不能な状態にあると言わなければならない。「成長の限界」が問われ、「大量生産・大量消費・大量廃棄」からの脱却が論じられて久しい。しかし、学派を問わず量的な均衡概念に拘束された これまでの社会科学は、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の世界から「持続可能な人間環境」世界へのパラダイム転換を果たすことなく、無力化しているかに 見える。本来社会科学は、「社会的・生態的持続性に根ざした、人間と自然の社会的再生産のシステム」を目指す学であるべきである。かかる観点から、21世 紀社会科学の課題として次の二点を提起したい。
(1) 「環境問題」の実態とその理論的・実践的な取り組みの確認。
「環境問題」の根源にあるのは、<自然資源は利用対象、市場取引の対象にならないモノはゴミ>と見なす経済観・社会観であり、その基礎にはあるのは「環境=社会の外部」という自然・環境認識である。「環境=外部」説は、認識レベルにおける「環境問題」の根源であると同時に、「社会的費用」「社会的共通資 本」「排出権取引」など、「環境問題」に関する理論的処方箋にも大きく影響している。学問レベルでの「環境問題」の原因分析と、実践的な対策とがかみ合っ ていない点に着目し、「環境問題」の実態と研究水準を確認しておくことは、21世紀の「社会的再生産システム」を探る上で不可欠な前提である。
(2) 「持続可能な循環型社会」のあるべき姿の提示。
学問の分野のみならず実社会においても、「持続可能な循環型社会」は21世紀世界のあるべき社会像として定着しつつある。しかし、日本の現実に明らか なように、「環境=社会の外部」説を維持したままの「循環型社会形成」論は、大量生産・大量廃棄を前提とする経済成長至上主義との折衷に陥りがちである。 自然科学の成果も踏まえ、「循環型社会」を「持続可能な社会的再生産のシステム」として具体化することは、今後の重要な課題である。
以上、狭義の学派や専攻分野を超え、持続可能な人間環境を育む《新しい人間関係、新しい生産関係》の研究というテーマに共感する、研究者・大学院生、実 務家の参加を期待している。
2006年10月10日
呼びかけ人:久保新一(代表)、黒瀧秀久、佐藤洋一、島崎美代子、福士正博、保志洵、 山本孝則