2019年春季学術大会

日時:2019年6月15日(土)13:00~17:00

会場:東京大学農学部(弥生キャンパス) 農学部1号館 2階 第8番講義室(227号室)

テーマ:経済学部の成立と日本の学知

問題提起 榎一江(法政大学)

報告者と論題
1.小野塚 知二(東京大学)「東京帝国大学経済学部の創立と社会政策」
2.岡田 知弘(京都大学名誉教授、京都橘大学)「京都帝国大学経済学部の研究教育活動と国家・社会」
3.榎 一江(法政大学)「大原社会問題研究所と初期社会調査」

コメント
1.国際比較の観点から 小林 純(立教大学名誉教授)
2.日本のマルクス経済学研究史の観点から 江原 慶(大分大学)

司会 武田晴人(東京大学名誉教授)・牧野邦昭(摂南大学)

趣  旨

 2019年、日本の「経済学部」は百周年を迎える。大学における学部の名称が多様化する昨今、それはもはや何らかの学術体系を示すものではなく、学位の名称もまた多様化している。学部名に新しさを求める風潮からすれば、100年の歴史を持つ経済学部の存在は異彩を放っている。2019年度春季総合研究会は、日本のアカデミズムにおける経済学の制度化に焦点を当てる。

 1919年は帝国大学で経済学部が独立する年であり、それは経済学の国家学、法学からの独立を意味した。当初、文学部で講義された経済学は、「政治及理財学科」の法学部への移管と「政治学科」への改称によって法学に組み込まれた。東京帝国大学法科大学では1908年に政治学科と経済学科が分離し、1909年に商学科が設けられ、この経済学科と商学科が分離独立して経済学部となった経緯がある。同年には、京都帝国大学でも法科大学が再編されて経済学部が設置された。

 この間、政治学科の分離により1887年に国家学会が結成され、官僚を含む官学アカデミズムが形成されたのに対し、社会政策の研究会を継承して1897年に結成された社会政策学会は工場法案をめぐる政策提言や啓蒙活動を展開し、経済学を中心とする社会科学の総合的学会として影響力をもった。1907年から開かれた年次大会は、帝国大学だけでなく私立大学でも開催され、企業家や社会運動家も多く参加したが、1919年に設立された協調会への参加をめぐって対立を深め、1924年に活動を休止した。協調会に参加しなかった者の一部は、大阪で設立された大原社会問題研究所で研究活動を行ったのである。

 開国期に欧米の学問を移入する形で出発し、日本の「帝国」化の過程で構築されていった日本の諸学の形成に改めて焦点を当てたのは、岩波講座『「帝国」日本の学知』であった。ここでは、「学問の内在的理解を踏まえつつ、同時にそれを知の実践文脈のなかで捉え直す複眼的視点」を念頭に置いて「学知」という問題設定を行い、今日の視点から、近代日本の学知の批判的継承を目指した。第2巻「『帝国』の経済学」(2006年)は、輸入学問として導入された経済学の形成と日本化の過程を、国内外の環境の変化の中で考察するため、学知を体現する人物やグループに焦点を当てた。それは大学、官庁、ジャーナリズムなど様々な分野に及んだ。これに対し、春季総合研究会では学知という問題設定をふまえ、あらためて帝国大学における経済学部の成立に焦点を当てたい。

 もちろん、帝国大学における経済学部という組織の成り立ちが経済学という学問の内実を決定づけるとは限らず、経済学者のみならず多様な経済人を輩出した私立大学を含む経済学教育のあり方も重要な関心事であろう。たとえば、私立大学として初めて経済学部を設置した慶應義塾大学は、すでに1890年の大学部発足にあたって文学、理財、法律の3科を設け、大学令によって医学部を加えた総合大学となる際、理財から経済へと学部の名称を変更するなど、独自の展開を見せていた。1918年12月6日公布(1919年4月1日施行)の大学令により、1920年に認可された私立大学においても、慶應義塾大学、法政大学、中央大学が経済学部を設置したのに対し、早稲田大学、明治大学は政治経済学部、日本大学は商学部を設置し、同志社大学は法学部に経済学科を設け、体系的な経済学教育が開始された。また、大学に昇格した東京高商や神戸高商の調査研究活動も、蓄積を有していた。

 以上のように、大学に限っても経済学の急速な広がりを確認できるが、ここでは1919年に設置された東大経済学部、京大経済学部、大原社会問題研究所を取り上げる。それは、100年前の経済学部の創立にさかのぼって、日本における経済学の制度化と国家の政策との関係を議論したいからである。現在、東京大学経済学部、京都大学経済学部、法政大学大原社会問題研究所は、2019年に100周年を迎えるため資料収集や百年史編纂を行っている。2019年度春季総合研究会では、この東大、京大、大原社会問題研究所の百年史担当者が一堂に会し、それぞれの調査研究を振り返り、学問の自由をめぐる国家との関係、帝大と民間研究所における学術研究のあり方を問いなおす。

 まず、小野塚報告は東大経済学部百年史の知見から、東大経済学部の創立をめぐって、経済学と国家、国際機関との関係について、とりわけ社会政策に関する論点を提起する。岡田報告は、京大経済学部百年史の知見から、大正デモクラシー下の学部草創期における河上肇・河田嗣郎らの社会政策学会での活動や戸田海市らの都市社会調査が、河上・瀧川事件を経て国策研究へと変転していく過程と戦後の学部再建の歴史的意味を、社会科学における「学問の自由」の視点から報告する。榎報告は法政大学大原社会問題研究所百年史の知見から、東大・京大との関係を明らかにし、財団法人化や東京移転を経て法政大学との合併に至る過程で展開された学術研究機関としての活動を報告する。これら3報告に対し、コメントは国際的な視野から日本の文脈を相対化して論点を提起していただく。また、日本のマルクス経済学研究史の観点からも論点を提起していただき、議論を深めたい。これは、国立大学と私立大学との関係や軍学共同・産学官連携をめぐる今日的課題に、史実に基づく学術的な論点を提供するだろう。本学会員のみならず、本テーマに関心をもつ方々の参加を期待したい。

<参考文献>
杉山伸也編(岩波講座「帝国」日本の学知 第2巻)『「帝国の経済学」』岩波書店、2006年

協賛:法政大学大原社会問題研究所